この記事でわかること
- 大人のASD(自閉スペクトラム症)の主な特徴と現れ方
- 男性と女性で異なる現れ方、見過ごされやすいポイント
- ASDによる生きづらさの具体例
- 診断名よりも大切な「特性理解」と「個別サポート」
「もしかして私、ASDかも?」と感じているあなたへ
「コミュニケーションがどうも苦手」「職場で浮いてしまう」「他人と同じように振る舞えない」。
大人になってから、そんな悩みを抱えて「自分はASDなのでは?」と考える方は少なくありません。
子どもの頃は「ちょっと変わった子」で済んでいたことも、大人になると人間関係や社会的な役割の中で問題として現れやすくなります。ASDの特性は「障害」としてだけではなく、その人のもつ「認知や情報処理における特性」として捉えることが大切です。
本記事では、大人のASDの特徴や男女差、生きづらさの背景、そして「診断にこだわらない支援の考え方」を、専門的な視点から解説していきます。
【基礎知識】大人のASDとは?基本的な理解
ASDの定義
ASD(自閉スペクトラム症)は、社会的なコミュニケーションや対人関係の難しさ、こだわりや感覚特性などを特徴とする発達の特性です。かつて「自閉症」「アスペルガー症候群」などに分けられていた診断名は、現在ではASDというスペクトラム(連続体)概念に統合されています。強い特徴を示す方も、あるいは傍目には特徴が目立たない方(決まったルーティーンの中では顕在化しない、尋常でない努力でカバーできている、など)も、生きづらさがあり生活上の困難を感じているならば、本質としては同じ地続きのものである、という考え方です。
ASDの3つの主な特徴
- 社会的コミュニケーションの困難・対人関係における困難。表情や仕草の読み取り、暗黙のルールの理解が難しいことが多い。人間関係の構築や維持に困難を感じる。
- こだわり・柔軟性の不足。決まった順序や予定が崩れると強いストレスを感じる。興味が限られており広がりにくい。
- 感覚過敏・鈍麻音・光・匂いなどへの過敏さ、または痛みに鈍いなど、感覚処理の独特さがある。
これらの特徴が発達早期から現れており、知的な遅れがなく、上記の特徴が社会生活での困り感に繋がっている場合、診断がつくことが多いです。
子どもと大人のASDの違い
子どもの頃は「落ち着きがない」「マイペース」「〇〇博士(〇〇については大人よりも図抜けてよく知っている)」「天然」といった言葉で片づいている場合もあります。大人になると落ち着きは出てくることが多いですが、得意とする知識の蓄積では雰囲気や感情といった目に見えないものに対応しきれず、職場や家庭での複雑な人間関係の中で困難が顕在化しやすくなります。
大人になって気づく背景
社会生活の複雑さや職場での高度なコミュニケーションが求められる中で、特に悪いことはしていないと思うのに明らかに疎外感を感じたり、正しいことを言っているはずなのに自分の意見だけが取り合ってもらえなかったり、悪気がない、あるいは良かれと思ってしたことなのに相手を怒らせてしまうことが多いなどで、「なぜ自分だけがうまくいかないのか」と違和感を抱くことがきっかけになることが多いです。また、通常に生活をし、仕事をしているだけなのに「異様に疲れる」「この疲れ方は通常ではないのでは」と思い至る方もおられます。
【特徴詳細】大人のASDに見られる7つの特徴
ここに挙げるのは、具体例から気づいていただくための例示です。診断基準ではありませんので、ご注意ください。
診断基準を知りたい方は、DSM-5、ICD-11をご参照ください。
① コミュニケーションの難しさ
- 会話の間合いをつかみにくい
- 冗談や比喩を文字通りに受け取ってしまう
- 行間を読むのが苦手
- 雑談が苦手
- 表情を読むのが苦手
- 好きなものの話題になると相手の反応によらず一方的に喋ってしまう
② 対人関係の構築・維持の難しさ
- 相手の気持ちを想像するのが難しい
- 自他の境界が薄い(相手には相手なりの感じ方、考え方、事情があることを尊重しにくい。自分は正しいことを言っているのに相手はどうしてわかってくれないのかと思ってしまうなど)
- 社交的な場面でどうふるまっていいかわからない、あるいは疲弊しやすい
- 親しい関係が長続きしないこともある
③ こだわりと変化への適応困難
- 決まった順序や習慣を強く守ろうとする
- 突然、自分の思い通りのやり方でなくなると、非常に動揺してしまう
- 環境の変化に強い不安を感じやすい
④ 感覚過敏・鈍麻
- 服のタグや音に過敏
- 一方で、痛みに気づきにくい場合もある
⑤ 想像力・抽象的思考の困難
- 先を見越した行動が苦手
- 相手の立場に立つことや未来を予測することが難しい
- 全体よりも細部に注目しやすい、本質をつかむのが苦手
⑥ 社会的ルールの理解困難
- 暗黙の了解が理解できず、誤解を招くことがある
- 職場で「空気が読めない」と思われることも
⑦ 反復行動・常同行動
- 同じ行動を繰り返すことで安心する
- 特定の趣味や興味に没頭し、広がりにくい
【男女別】ASDの特徴に見られる性差
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴は、男女で異なる現れ方をすることがあります。診断基準そのものは共通ですが、社会的な期待や適応の仕方の違いにより、表面に現れる姿が異なって見えることが多いです。
男性に多い特徴
男性は「典型的なASDの特性」が目立ちやすく、女性と比較して診断につながりやすい傾向があります。
- 強いこだわりや特定の分野への集中が表立って現れる
- 集団でのやりとりや、職場での雑談にうまく入れない
- 慣れない環境に置かれると混乱しやすい
- 社会的立場や影響力、あるいは相手の心情を考慮せず、自分の意見や価値観の正しさを説得して認めさせようとする
エピソード例
- 職場の朝礼で同僚が軽い冗談を交えて話していても、内容を文字通りに受け取り場がしらけてしまう。
- 仕事の進め方に強いこだわりがあり、上司から「もっと柔軟に」と言われるが納得できず対立してしまう。
- 趣味の鉄道や歴史の話を延々と続け、周囲に「空気が読めない」と思われてしまう。
- 家ではお茶くみや掃除は女性の仕事だったので、女性がやるものだと主張して「ハラスメント」と注意を受ける。
- 一度決めた方針が、再検討により変更されたり、上層部の意向が反映されて方向転換されることを受け入れるのが難しい。
このように男性の場合は「わかりやすい困りごと」として現れやすいため、早期にASDの可能性に気づかれることが少なくありません。
女性に多い特徴
女性はASDの特徴を表に出さず、隠そうとすること(マスキング)が多い傾向があります。
- 周囲に合わせるために仮面をかぶり、疲弊してしまう
- 相手の会話パターンを観察して模倣し、適応しているように見せる
- 本来は苦手な対人関係を無理して続けることで、心身に大きな負担がかかる
- 子育てをして初めて自分の傾向に気づくこともある
エピソード例
- ママ友との集まりではにこやかに会話をしているが、帰宅後はぐったりして動けなくなる。
- 職場で「気配りができる人」と評価される一方、心の中では「相手が何を考えているのかわからない」と常に不安。
- 家族や恋人に「察してほしい」と言われても、相手の気持ちを読み取れず「冷たい人」と誤解される。
- 女の人と会うと疲れてしまう。男の人とは趣味の一致やその深さで楽しめることが多い。
- 空気を読んでうなずいているふりをしているが、実はあまりわかっていない。
- 子どもにASDの特徴があり、自分に共通したものを感じる。
マスキングの背景には、非言語的コミュニケーションが優位の女性集団の中で、孤立したりはぶかれたりしないように自分の身を処していかなければならなかったことが多いと考えられます。
このように女性は、表面上「適応できているように見える」ため、支援にたどり着くまでに時間がかかる場合があります。
女性が診断を受けにくい理由
女性のASDが見過ごされやすい背景には、いくつかの要因があります。
- 社会的期待:「女性は共感的で気が利くべき」という文化的なプレッシャーに応えようとする
- マスキングの巧妙さ:外から見て困りごとがわかりにくい
- 診断基準の偏り:研究や診断が男性中心に積み上げられてきた歴史がある
結果として、女性は「性格の問題」とされやすく、本質的な困難さが見過ごされてしまいます。その間に抑うつや不安などの二次障害を発症するケースも少なくありません。
このように、ASDの特性は男女で異なる形で現れます。それぞれに合わせた理解と支援が欠かせません。
【生活場面別】ASDの特徴が現れやすい場面
職場・仕事での困りごと
- 会議で「空気を読んで発言する」のが難しく、沈黙してしまうか、不適切なタイミングで発言してしまう。
- 雑談や飲み会の会話に入れず、「協調性がない」と誤解される。
- 突然の指示変更やイレギュラー対応に強いストレスを感じる。
- 電話対応や顧客対応など「臨機応変なコミュニケーション」が求められる場面で困難が生じやすい。
- 細部へのこだわりが強く、全体の進行よりも部分の正確さに固執してしまう。
家庭・プライベートでの困りごと
- 家事の手順を臨機応変に変えられず、予定外のことが起きると混乱する。
- パートナーに「言わなくてもわかってほしい」と期待されるが、その意図を読み取れずすれ違いが起こる。
- 子育ての場面で、子どもの感情の変化や泣き方の違いを理解できず戸惑う。
- 友人との約束を忘れたり、時間管理が難しく遅刻してしまう。
- 一人の時間が必要なのに、周囲に「冷たい」と思われやすい。
社会生活での困りごと
- レストランでメニューをすぐに選べず、焦ってしまう。
- 行列や人混みの騒音・光で疲れてしまい、外出が負担になる。
- 公共交通機関でのマナー(座席の譲り方、会話の声量など)が分からず注意されることがある。
- 行政手続きや役所でのやり取りの際、説明を整理して受け取れず、誤解が生じる。
- 近隣住民とのコミュニケーションで「素っ気ない」と思われ、孤立する。
ASDと間違えやすい状態・併存しやすい問題
大人のASDの特徴は、他の発達障害や精神的な問題と重なりやすいため、自己判断だけでは誤解を招くことがあります。さらに、長年の生きづらさから二次的な症状を抱えるケースも少なくありません。ここでは、よく見られる「間違えやすい状態」や「併存しやすい問題」を解説します。
他の発達障害との違い ― ADHDとの重なり
ASDとADHD(注意欠如・多動症)は症状の一部が似ており、区別が難しいことがあります。
- ADHD:注意が散漫になりやすく、次々と入ってくる刺激につられてしまうため忘れ物やケアレスミスが多い、衝動的に行動してしまう。
- ASD:注意の偏りは「興味の範囲が限られている」ことから起こりやすく、特定のことに強い集中を示す。
例:会議中に話を聞き逃す場合、ADHDでは「注意が持続しないため」、ASDでは「関心のない話題に集中が向かないため」という違いがあります。両者を併せ持つ人もおり、専門的なアセスメントが必要です。
併存しやすい二次障害
ASDそのものよりも、長年の誤解や孤立から生じる「二次障害」に悩む人も多いです。
- うつ病:周囲との摩擦や失敗経験が重なり、自己否定や学習性無力感が強まる。
- 不安障害:対人場面での緊張が慢性的になり、外出や人付き合いが難しくなる。
- PTSD:過去のいじめやトラウマ的体験が、後の心身の症状に影響する。
例:子どもの頃から「変わっている」「空気が読めない」と言われ続けた経験が、大人になって強い自己否定や対人恐怖につながることがあります。
トラウマ体験との関連
ASDの特性そのものだけでなく、周囲からの理解不足や繰り返される否定的な体験が、トラウマとなる場合があります。
- 学校でのいじめや仲間外れ
- 職場で「空気が読めない」と批判され続ける
- 家族からの否定や「努力が足りない」という叱責
これらの経験は、ASDの特性による困難をさらに強め、二次障害を引き起こす要因になります。
また、感覚の敏感さや、独特の理解の仕方から、体験のインパクトが強く感じられ、トラウマ化しやすいという側面もあるかもしれません。
- 怒られたことがナイフで刺される痛みのように感じられ、非常に恐ろしい体験だった
- 「今話しかけないで」と言われて、相手に全てを否定され、存在まで否定されたと感じた
- 相手の意見が自分と違うという事柄を「受け止めてもらえなかった」と解釈した
このように、ASDは単独で存在するのではなく、他の発達障害や精神的な問題と複雑に絡み合うことが多いのです。だからこそ、正確な理解と専門家による包括的なアセスメントが不可欠です。
「診断」より大切な「特性理解」と「個別支援」
ASDの可能性を考えたとき、多くの人が「診断を受けるべきかどうか」で迷います。診断は一つの大切なステップですが、それだけがゴールではありません。本当に大切なのは、診断名に縛られることではなく、自分自身の特性を理解し、それに合った支援を受けていくことです。
診断のメリットと限界
診断を受けることには、いくつかのメリットがあります。
- 自分の生きづらさの背景に名前がつくことで、安心感を得られる
- 医療機関や行政サービスにつながりやすくなる
- 家族や周囲が理解しやすくなる
一方で、診断には限界もあります。
- 「診断名=自分」と思い込み、自分を狭く捉えてしまう危険がある
- ラベル化されることによって、新たな偏見や誤解を招く可能性がある
- 実際の支援は診断名よりも「その人の特性」に基づいて考えなければならない
つまり、診断はあくまで入り口に過ぎず、その人自身をすべて表すものではありません。
特性理解に基づく生活改善
大切なのは、自分の特性を理解し、生活にどう活かしていくかです。
- 「音に敏感なので、静かなカフェで作業する」
- 「予定の変更が苦手だから、あらかじめスケジュールを見える化する」
- 「対人関係で疲れやすいので、一人の時間を確保する」
このように、自分の得意・不得意を把握し、環境を整えるだけで日常生活が大きく改善することがあります。特性を知ることは、自己否定ではなく自己理解と自己受容の第一歩なのです。
一人ひとりに合わせた支援の重要性
ASDとひとことで言っても、その現れ方は人によって大きく異なります。
- 職場で困難が強い人もいれば、家庭生活に課題が集中する人もいる
- 感覚過敏が中心の人もいれば、対人関係が最大の課題になる人もいる
そのため支援は「診断名」だけに基づくのではなく、一人ひとりの特性と環境に応じたオーダーメイドの対応が欠かせません。
専門家に相談することで、自分では気づきにくい強みや工夫の仕方を一緒に見つけていくことができます。継続的な伴走支援があることで、安心して自分らしい生活を築いていけるのです。
このように、診断は一つのきっかけに過ぎません。本当に大切なのは「特性理解」と「個別支援」です。自分を理解し、支援を受けながら、より生きやすい環境を整えていくことこそが、ASDと共に自分らしく生きるための大きな鍵となります。
いつ専門家に相談すべき?
ASDの特性は、人によって表れ方も困りごともさまざまです。「病院に行くほどではない」「我慢できるから大丈夫」と思っていても、少しずつ生活に負担が積み重なっている場合があります。専門家への相談は、必ずしも「大きな問題が起きてから」ではなく、生きづらさを感じ始めた時点で検討してよいものです。ここでは、相談を考える目安になる場面をご紹介します。
日常生活に支障が出ている時
- 職場での人間関係がうまくいかず、転職を繰り返してしまう
- 上司や同僚の指示が理解できず、仕事に強いストレスを感じている
- 家族やパートナーとのコミュニケーションで誤解が多く、関係がぎくしゃくしている
- 残業も少なく、遊び歩いているわけでもなく、一般的な暮らしをしているだけなのに、いつも疲れている
このように、生活のさまざまな場面で困難が積み重なっているときは、専門家と一緒に特性を整理し、環境調整の工夫を見つけることが有効です。
自己理解を深めたい時
- 「自分はどうして人と同じようにできないのだろう」と感じる
- 自分の得意・不得意を整理したい
- 将来の働き方や人間関係の築き方を考えるヒントがほしい
- 既存のロールモデルではしっくりこないので自分なりに目指す姿を探したい
必ずしも「症状が重いから相談する」ということではありません。自己理解を深め、自分らしい生き方を模索するための相談も、専門家の大切な役割です。
継続的なサポートが必要な時
- 繰り返し同じ失敗をしてしまい、自己否定感が強まっている
- 不安や抑うつといった二次障害が出てきている
- 一人では工夫や努力を続けることが難しい
- 対人関係や感情表現の練習がしたい
こうした場合は、短期的なアドバイスだけでなく、長期的に伴走してくれる支援者が必要です。継続的な相談を通して、自分の特性に合った生活習慣や人間関係のあり方を一緒に作り上げていくことができます。
専門家に相談することは、「弱さを認める」ことではなく、自分らしい生き方を取り戻すための前向きな選択です。困りごとがはっきりしている人も、まだ漠然とした不安の段階にある人も、「相談してみてもいいかもしれない」と思えたときが、最適なタイミングです。
ASDの可能性を考えたとき、多くの人が「診断を受けるべきかどうか」で迷います。診断は一つの大切なステップですが、それだけがゴールではありません。本当に大切なのは、診断名に縛られることではなく、自分自身の特性を理解し、それに合った支援を受けていくことです。
参照ブログ カウンセラーをどう選ぶか
まとめ ― ASDの特徴理解は、自分らしい生き方への第一歩
ASDの特徴を理解することは、「欠点を探すこと」ではありません。自分の特性を知ることは、生きやすさを取り戻す第一歩です。診断名はゴールではありません。それをスタートとして、凹凸をならそうとするのではなく唯一無二の特徴として、「あなたらしさ」に寄り添ったオーダーメイドの支援が大切です。
ご相談ください ― さっぽろ羊の森でのサポート
心理カウンセリング さっぽろ羊の森では、約30年の臨床経験を活かし、
- 発達の視点に基づいた丁寧なアセスメント
- トラウマにも配慮した包括的なケア
を行っています。
診断名にとらわれず、一人ひとりに合わせたオーダーメイドのサポートをご提案します。
心理カウンセリング さっぽろ羊の森 へお気軽にご相談ください。
心理カウンセリング さっぽろ羊の森は、臨床心理士・公認心理師による心理支援を行います。診断はできませんので、ご留意ください。診断をご希望の場合は、精神科医療機関の受診が必要です。
ASDは個人差が大きく、上記の例に当てはまるからASDであると自己診断することは危険です。診断は、必ず医療機関で医師の診察を受けてください。なお、診断がなくても、心理カウンセリング さっぽろ羊の森ではご相談をお受けできます。心理検査も実施可能です。心理検査実施の場合は、検査からみられる特徴を踏まえた支援をご提案いたします。